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ASEANにおける伝統医学と現代医療の融合

東南アジア諸国連合(ASEAN)は、多様な文化と豊かな歴史を持つ地域であり、伝統医学は何世紀にもわたって人々の健康と福祉を支えてきました。近代化とグローバリゼーションの波に乗り、現代医療が普及する一方で、伝統医学の価値が再評価され、現代医療との融合が進んでいます。この融合は、医療サービスの質の向上や新たな治療法の開発だけでなく、ヘルスケア市場における新たなビジネスチャンスを生み出しています。 本稿では、ASEANにおける伝統医学と現代医療の融合の動向を詳しく分析し、その市場ポテンシャルについて考察します。特に、日本企業が参入可能な分野とその戦略について焦点を当てます。

目次

伝統医学と現代医療の融合の動向

各国政府の政策と取り組み
タイ
タイ政府の伝統医学に対する姿勢は近年大きく変化しています。2022年に大麻を合法化した政策を覆し、2023年5月にタイの公衆衛生大臣ソムサック・テプスティンは、大麻を再び麻薬として分類し、医療目的と研究目的でのみ許可を発行する計画を発表しました。新規制では、娯楽目的の使用は禁止され、医療・研究目的の栽培、輸出、所持には許可が必要となります。
さらに、タイ保健省は伝統医学の推進に向けて以下の取り組みを行っています:
– 国家必須医薬品リストに18種類のハーブを追加
– タイ伝統・代替医療局(DTAM)に、現代医療の代わりにタイのハーブの使用を促進する任務を付与
– 国立病院でのタイのハーブ医薬品の使用価値を年間約10億バーツから15億バーツに増加させる計画

これらの施策は、タイ政府が伝統医学を重要視し、その活用を積極的に推進していることを示しています。同時に、大麻政策の転換は、規制と医療目的での利用のバランスを取ろうとする政府の姿勢を反映しています。

[参考]
*1 Thailand plans to require permits for medical, research use of cannabis – Reuters
*2 Public Health Ministry promotes Thai traditional medicine – The Nation

ベトナム
ベトナムの伝統医学に関する最新の取り組みは、2024年11月に開催された第2回薬用植物・伝統医学・医薬品フェア(VIETRAMED EXPO 2024)に表れています。このイベントは、ホーチミン市で11月21日から23日にかけて開催され、300以上のベトナム国内外の企業が参加しました。
VIETRAMED EXPO 2024の主な特徴は以下の通りです:
– 保健省伝統医学局とベトナム広告・フェア展示株式会社(VIETFAIR)の共同開催
– 420以上のブースで、薬用製品・材料、ヘルスケア、薬草生産機械技術、スマート医療・製薬機器、伝統医学の大学・研修センターなどを展示
– 伝統医学の成果を治療やヘルスケアに応用する方法や、現代におけるベトナム伝統医学の発展についてのセミナーを開催
– ベトナムの少数民族の独特な医学的特徴や知識の紹介

このイベントは、薬用植物の栽培、収穫、加工、取引を支援し、高品質な薬草製品の生産と価値連鎖の発展に向けた投資を促進することを目的としています。保健省副大臣のド・スアン・トゥエン氏は、このイベントが薬用植物農家、企業、消費者をつなぐ価値連鎖の形成に貢献し、ベトナム特有の薬用植物や製品を世界に紹介する機会になると述べています。
さらに、ホーチミン市伝統医学病院のド・タン・コア院長は、ホーチミン市および全国の伝統医学が、医療診断・治療能力、サービス品質、患者満足度の向上において大きな発展を遂げていると指摘しました。ホーチミン市では、伝統薬草医学の専門化を進めることで、ASEAN地域における専門医療センターとしての地位を確立し、医療観光のニーズに応えることを目指しています。
これらの取り組みは、ベトナムが伝統医学を現代医療システムに統合し、その発展と普及に積極的に取り組んでいることを示しています。

[参考]
*3 More than 300 businesses gather at Fair of Medicinal Materials, Traditional Medicine and Medicinal Products – Nhan Dan

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VIETRAMED EXPO 2024 (公式ホームページより引用)

マレーシア
マレーシアは、伝統医療と現代医療を統合する先進的な取り組みを行っています。この取り組みの一環として、2016年に伝統・補完医療(T&CM)法が制定されました。この法律により、伝統医療と補完医療の国内での統合が促進され、高水準の治療の提供と開業医の適切な資格確保が保証されています。
マレーシア政府は、伝統・補完医療を国の医療システムに組み込むための様々な施策を実施しています。例えば、マレーシア国立がんセンターでは、西洋医学部門の指示のもと、がんやがん治療に伴う症状に対して、エビデンスに基づいた中国薬や鍼治療を提供しています。これにより、患者は現代医療と伝統医療の両方を選択できるようになりました。
さらに、マレーシア政府は伝統・補完医療の発展と規制強化に力を入れています。2021年3月1日からは、認定された伝統・補完医療分野で開業するには正式な登録と認定資格が必要となりました。これは、T&CMの制度化と規制強化を通じて、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの提供に貢献することを目指す取り組みの一部です。
マレーシアの伝統・補完医療への取り組みは国際的にも注目されており、世界保健機関(WHO)などの国際会議でも議論されています。また、マレーシアは医療観光の分野でも注目を集めており、T&CMの統合はその魅力の一つとなっています。
マレーシアの伝統・補完医療への取り組みは、医療の質の向上と患者の選択肢の拡大を目指す革新的なアプローチとして評価できます。今後も、この分野での発展と国際的な連携の強化が期待されます。

[参考]
*4 Best Medical Treatment in Malaysia – MedSurge India
*5 ASEANにおけるヘルスケア制度・政策調査 – JETRO

インドネシア
インドネシア政府は、伝統医学を現代医療システムと共存させながら、その有効性と安全性を確保するための取り組みを行っています。
保健省(Ministry of Health)が保健医療政策を所管しており、その中で伝統医学も重要な位置を占めています。特に、インドネシアFDA(Badan POM)がOTC医薬品、伝統薬、およびハーバルメディシンの規制を担当しています。これは、伝統医学を公的な医療システムの一部として認識し、適切な管理下に置こうとする政府の姿勢を示しています。
インドネシアの伝統医学の中でも、「ジャムウ」と呼ばれる伝統的な薬草療法は特に注目されています。ジャムウは8-9世紀頃から存在が確認されており、現在では多くが製薬企業で製造され、薬局で販売されています。政府は、この伝統的な医療形態を現代の医薬品製造・流通システムに組み込むことで、品質管理と安全性の確保を図っています。
また、インドネシア政府は伝統医学の研究と調査にも力を入れています。ジャムウの健康効果に関する科学的な調査研究が行われており、その利用資源、方法、期待される効能・効果の解明を目指しています。これは、伝統医学の科学的根拠を確立し、その有効性を現代医学の観点から検証しようとする取り組みといえます。
さらに、政府は伝統医療従事者である「ドゥクン」の活動も認識しています。特に地方部では、ドゥクンによる伝統的な治療が継続して行われており、政府はこれを完全に排除するのではなく、現代医療システムと並存させる形で管理しています。
このように、インドネシア政府は伝統医学を重要な医療資源として認識し、その有効活用と科学的検証を進めながら、現代医療システムとの調和を図る政策を展開しています。

[参考]
*6 アジア諸国医薬品・医療機器規制の情報収集・分析業務 サマリーレポート – GMC株式会社

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ジャムウ

統合医療の普及と教育
ASEAN各国では、伝統医学と現代医療を組み合わせた統合医療の提供が拡大しています。医療教育機関では、医学生に対して伝統医学の基本的な知識と技術を教えるカリキュラムが導入されています。これにより、新しい世代の医療従事者が統合的な視点で患者のケアを行うことが期待されています。

シンガポール
シンガポールでは、伝統中国医学(TCM)が医療システムの重要な一部として認識され、継続的に発展しています。最近の動向として、南洋理工大学(NTU)が2024年8月から新しい「中医学学士」プログラムを開始する予定です。このプログラムは、シンガポール保健省(MOH)のTCMプラクティショナーズボードによって認定された初の学士課程となります。 NTUの新プログラムは、従来の北京中医薬大学との共同プログラムに代わるもので、シンガポールの多様な人口構成に対応したカリキュラムが特徴です。この4年制のプログラムでは、生理学、薬理学、解剖学などの科目に加え、教室での学習と臨床トレーニングが提供されます。また、学生は毎学期パートナーTCM機関でインターンシップを行い、海外での研修機会も設けられる予定です。
シンガポールのTCM統合は、公立病院でも進んでいます。一部の公立病院では、西洋医学の治療と並行してTCMの鍼治療が提供されており、これらの治療はMediSave(医療貯蓄制度)を利用して支払うことができます。
さらに、保健省はTCMと「Healthier SG」(シンガポールの医療改革イニシアチブ)との統合を模索しています。オン・イェクン保健相は、TCMの予防医療に焦点を当てたアプローチが「Healthier SG」の目標と合致すると述べています。
また、TCMプラクティショナーの教育と訓練にも注力しており、2024年1月から新しく登録されたTCMプラクティショナーを対象に、1年間の構造化された臨床トレーニングプログラムが導入される予定です。
これらの取り組みは、シンガポールがTCMを現代の医療システムに統合し、国民の健康増進に活用しようとする姿勢を示しています。

[参考]
*7 NTU to offer new TCM degree programme in August 2024 – THE STRAITS TIMES

フィリピン
フィリピンでは、1997年に制定された「伝統・代替医療法」(Traditional and Alternative Medicine Act)により、伝統医学の統合と発展が法的に支持されています。この法律に基づき、フィリピン伝統・代替医療研究所(PITAHC: Philippine Institute of Traditional and Alternative Health Care)が設立されました。PITAHCは伝統医学の研究開発、普及促進、基準策定を主導し、国民の健康増進に貢献することを使命としています。

PITAHCの主な活動には以下が含まれます:
・伝統的・代替的ヘルスケアの研究開発
・伝統医学の国民医療システムへの統合促進
・ハーブ療法や民間療法の科学的研究の実施
・伝統医療従事者の教育・訓練プログラムの開発
・伝統医薬品の製造、品質管理、マーケティングの基準策定

フィリピンでは、特に農村部や離島地域において伝統医学が重要な役割を果たしています。これらの地域では、「ババイラン」と呼ばれる伝統的な治療者が、文化的に適切で低コストの医療サービスを提供しています。彼らは地域社会で高い信頼と尊敬を得ており、特に高齢女性や経済的に恵まれない患者にとって重要な医療提供者となっています。 政府は伝統医療の質を向上させるため、2020年にはフィリピン国立統合医学研究プログラム(NIRPROMP)を通じて10種類の薬用植物の研究を実施しました。これらの研究結果は、伝統的なハーブ療法の科学的根拠を強化し、一部の薬草は現代的な製剤として開発されています。
また、フィリピン保健省は伝統医療と補完医療(T&CM)のベストプラクティスを表彰するプログラムを実施しており、これらの取り組みを通じて伝統医療の質の向上と普及を図っています。

[参考]
*8 Philippine laws and jurisprudence databank

ラオスとカンボジア
ラオスとカンボジアでは、伝統医学が地域医療の重要な要素として認識されています。特にカンボジアでは、伝統医学の制度化と近代化に向けた取り組みが進んでいます。 カンボジアでは、2010年に初めての「伝統医学政策」が採択され、伝統医学を医療システムの重要な構成要素として位置づけています。この政策は、安全で効果的かつ質の高い製品と実践を目指し、倫理的な実践の促進、訓練の提供、合理的な使用の奨励、現代医学との統合、製品の生産と流通の規制などを含んでいます。 2022年までに、400人以上のクメール伝統治療師が訓練を受け、保健省による認定を取得しています。認定を受けるためには、少なくとも5年の経験が必要で、入学試験に合格した後、国立伝統医学センターで5ヶ月間のコースを受講する必要があります。このトレーニングは、知識の共有と職業意識の向上を目的としており、伝統的な治療師が業界の要求する倫理を理解することを目指しています。
また、カンボジアでは中国との協力により、伝統中国医学(TCM)の普及も進んでいます。2022年3月以降、中国はTCM医療援助チームをプノンペンのカンボジア中国友好プレア・コソマック病院に派遣し、COVID-19パンデミックとの闘いを支援しています。これらのTCM医療援助チームは、数千人の患者に無料の健康診断と治療を提供し、数百人の地元の医療従事者に短期トレーニングコースを実施しています。
しかし、カンボジアの伝統医学は主に非公式なセクターで実践されており、多くの伝統的な治療師は農村部や遠隔地に住んでいます。伝統医学はまだ国家保健戦略計画に含まれておらず、健康保険でもカバーされていません。また、伝統医学の実践者の総数は不明ですが、少なくとも各村に1人、大きな村には複数の実践者がいると考えられています。 これらの取り組みは、カンボジアが伝統医学を現代の医療システムに統合し、国民の健康増進に活用しようとする姿勢を示しています。しかし、伝統医学の完全な制度化と規制には、まだ課題が残されています。

[参考]
*9 Traditional medicine meets modern training as Cambodia certifies traditional healers – Asia News Network
*10 Traditional Chinese medicine captivates Cambodian medical practitioners – Belt and road portal
*11 Traditional Khmer Medicine and its role in wildlife use in modern-day Cambodia – NIH
*12 The commercialization of traditional medicine in modern Cambodia – nih

ASEANの伝統医学市場について

ヘルスケア市場の成長因子
(1) 経済成長と医療支出の増加
ASEAN諸国は堅調な経済成長を遂げていますが、2023年の成長率予測は以前の予想よりも若干低下しています。アジア開発銀行(ADB)の最新の予測によると、2023年のASEAN地域の経済成長率は4.7%とされています。*13
この成長率は世界平均を上回っており、ASEAN地域は依然として世界で最も急成長している地域の一つです。
この経済成長に伴い、医療や健康に対する支出も拡大しています。世界保健機関(WHO)のデータによると、ASEAN地域の平均医療支出は1人当たり630ドルで、GDPの約4.7%を占めています。 *14 特に、シンガポールとブルネイは1人当たりの医療支出が高く、それぞれ3,969ドルと1,449ドルとなっています。
経済成長による個人の可処分所得の増加と中間層の拡大により、質の高い医療サービスや予防医療への需要が高まっています。また、医療保険の普及も進んでおり、2023年の民間医療保険市場は約75億ドルと評価されています4。この需要の増加は、可処分所得の増加、識字率の向上、インターネットへのアクセス拡大、そしてCOVID-19パンデミック後の健康意識の高まりによるものです。
一方で、ASEAN地域の医療システムには依然として課題があります。都市部と農村部の医療アクセスの格差や、富裕層と低所得層の間の医療の質の差が存在します。また、医療費の上昇、高齢化、慢性疾患の増加などが医療システムに圧力をかけています。 これらの課題に対応するため、ASEAN各国政府は医療インフラへの投資を増やし、医療アクセスの改善に取り組んでいます。民間セクターも医療施設の建設や医療サービスの提供に積極的に参入しており、市場の多様化と競争が進んでいます。

(2) 人口動態の変化
国連のデータによるとASEANの総人口は2023年時点で約6億9,000万人であり、都市化の進行とともに生活習慣病や慢性疾患が増加しています。世界保健機関(WHO)によると、東南アジア地域では糖尿病や心血管疾患の患者数が増加傾向にあります。
また、高齢化も進んでおり、65歳以上の人口が急速に増えています。国連人口基金(UNFPA)の報告によれば、タイやシンガポール、ベトナムでは高齢化率が高く、高齢者向けの医療サービスや介護の需要が高まっています。これらの要因は、医療サービスの需要をさらに押し上げるとともに、予防医療やリハビリテーションなどの新たな市場を生み出しています。例えばシンガポールでは、高齢化に対応するため「Healthier SG」プログラムを導入し、予防医療に焦点を当てています。

[参考]
*13 ASEAN Economic Outlook 2023 – ASEAN Briefing
*14 Healthcare – INVEST IN ASEAN
*15 ASEAN insurers struggle with quality, and accessibility in healthcare – insurance Asia
*16 Healthcare gaps notable across ASEAN nations – Reinsurance Business

伝統医学市場の拡大
・市場規模の推移
アジア太平洋地域(APAC)における伝統中国医学市場は、2022年時点で約505億ドルと推定されており、2024年から2031年にかけて年平均成長率(CAGR)10%で成長すると予測されています。
グローバルな伝統医学市場は2023年に1,748.9億ドルを記録し、2031年までに2,896.6億ドルに達すると予想されており、CAGRは7.5%です。

・需要拡大の背景
(1)健康志向の高まり:消費者の間で自然志向やオーガニック製品への関心が高まっており、化学合成品よりも天然由来の製品を求める傾向が強まっています。特に、ハーブや植物エキスを使用した健康食品や化粧品の需要が増加しています。
(2)政府の支援と規制強化:各国政府が伝統医学の研究開発や品質管理を推進しており、信頼性の高い製品が市場に供給されています。製品の認証制度や安全基準の設定により、消費者の信頼を得ています。
(3)観光業とのシナジー:伝統医学を体験するウェルネスツーリズムが盛んであり、観光客による需要も増加しています。スパやマッサージ、ハーブ療法などを含むパッケージツアーが人気を博しています。
(4)デジタル技術の活用:オンラインプラットフォームや電子商取引の拡大により、伝統医学の製品やサービスがより広範な消費者に届くようになりました。これにより、市場の拡大と新規顧客の獲得が可能となっています。

[参考]
*17 Asia Pacific Traditional Chinese Medicine Market Report 2024 – Cognitive Market Research
*18 Traditional Medicine Market to Surpass $289.66 Billion by 2031 at 7.5% CAGR: Coherent Market Insights – Coherent Market Insights

ウェルネスと予防医療の需要増加
・ウェルネス市場の拡大
ASEANのスパ、フィットネス、ヨガ、瞑想、栄養指導など多岐にわたるサービスを含むウェルネス市場は拡大を続けています。ウェルネスリゾートやスパの開発が進み、観光客や富裕層をターゲットとした高級施設も増加しています。また、都市部ではフィットネスセンターやヨガスタジオが増え、健康的なライフスタイルへの関心が高まっています。 具体例として、シンガポールの「Healthier SG」プログラムが挙げられます。このプログラムは予防医療に重点を置き、各住民に家庭医と健康プランを提供することを目指しています。

[参考]
*19 Singapore Introduces New Healthcare Reform Plan – ASEAN Briefing

・予防医療へのシフト
医療費の高騰や慢性疾患の増加により、各国政府や保険機関は予防医療への投資を強化しています。伝統医学は予防医療の一部として、栄養指導、ハーブ療法、マッサージなど多様なサービスを提供しています。これらのサービスは、生活習慣病の予防やストレス軽減に効果があるとされ、消費者の支持を得ています。

・デジタルヘルスの台頭
スマートフォンの普及とインターネットインフラの整備により、デジタルヘルスサービスが急速に拡大しています。ASEANのデジタルヘルスケア市場は2024年から2028年にかけて年率8.6%で成長すると予測されています。健康管理アプリやオンライン診療プラットフォームが増加し、伝統医学の知識を取り入れたデジタルサービスも登場しています。
例えば、オンラインで伝統医学の専門家に相談できるサービスや、健康状態に応じたハーブ製品を提案するアプリなどがあります。これにより、消費者は手軽に健康情報やサービスを利用できるようになりました。

[参考]
*20 Fit for the future: A bright outlook for business growth in ASEAN healthcare – HSBC

日本企業へのビジネスチャンス
(1)製薬・サプリメント分野
日本の製薬企業や健康食品メーカーは、高品質な製品開発と信頼性の高さで定評があります。ASEAN市場では、以下のようなチャンスが存在します。
– 伝統医学素材を活用した新製品開発:現地のハーブや植物エキスを日本の技術で加工・改良し、新たな医薬品やサプリメントとして市場投入。例えば、インドネシアのジャムウ成分を活用した免疫力向上サプリメントの開発など。
– 共同研究開発:現地の研究機関や企業と連携し、伝統医学の有効成分を科学的に検証し、エビデンスに基づく製品を開発。これにより、製品の信頼性と差別化を図ることができます。

(2)医療機器・テクノロジー分野
日本の医療機器メーカーは先進的な技術力を持ち、以下のような分野で活躍が期待できます。
– 診断・治療機器の提供:伝統医学で使用される診断法や治療法をサポートする機器(例:脈診測定装置、鍼治療デバイス)の開発・販売。これにより、伝統医学の精度と効率性を向上させることができます。
– 遠隔医療ソリューション:テレメディシン市場はASEANにおいても浸透してきています。インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイでは2023年までにユーザー浸透率がそれぞれ21%、23%、24%、21%に達すると予測されています。1離島や農村部など医療アクセスが制限されている地域向けに、テレメディシン技術を提供。伝統医学の専門家によるオンライン診療やコンサルテーションを可能にします。

(3)デジタルヘルスとサービス分野
– 健康管理アプリの開発:伝統医学の知識を組み込んだライフスタイル提案やセルフケアを促進するアプリの提供。ユーザーの健康状態をモニタリングし、個別のアドバイスを行うことで、健康増進に寄与します。
– データ分析サービス:ビッグデータとAIを活用し、疾病予防や個別化医療を実現するソリューションの提供。医療機関や保険会社との連携により、健康リスクの予測やコスト削減に貢献できます。

(4)教育・研修サービス
– 医療従事者向け研修:統合医療に関する知識と技術を提供する研修プログラムの実施。日本の医療教育のノウハウを活かし、現地の医療従事者のスキルアップを支援します。
– 一般消費者向け啓発活動:健康増進や予防医療に関するセミナーやワークショップの開催。健康意識の向上とブランド認知の拡大につなげます。

(5)観光・ウェルネス事業
– ウェルネスリゾートの開発・運営:伝統医学を体験できる高付加価値のリゾート施設の企画・運営。日本のサービス品質と現地の伝統医学を融合させた独自の体験を提供します。
– ツアーパッケージの企画:伝統医学の体験と観光を組み合わせたツアー商品の提供。健康と観光を融合した新たなマーケットを開拓できます。

[参考]
*21 PCA FORECASTS THE TELEMEDICINE MARKET IN ASIA – pioneer consulting asia pacific

市場参入のポイントと戦略
– 現地パートナーシップの構築
各国の法規制や市場慣習を理解するためには、現地企業や専門家とのパートナーシップが不可欠です。信頼できるパートナーと協働することで、リスクを最小限に抑えながら市場参入が可能となります。現地のネットワークを活用し、効果的なマーケティングや流通を実現します。
– 文化的感性とマーケティング
伝統医学は文化や信仰と深く結びついているため、現地の文化的背景を理解した上でのマーケティング戦略が求められます。現地の言語や習慣を尊重し、消費者との信頼関係を築くことが重要です。広告やプロモーションにおいても、文化的感性を取り入れたアプローチが効果的です。
– 規制遵守と品質管理
各国で伝統医学に関する規制が異なるため、法規制の遵守が必須です。また、日本企業の強みである品質管理を徹底し、高品質で安全な製品・サービスを提供することで、競争優位性を確立できます。国際的な品質認証(ISO等)の取得も信頼性向上に寄与します。
– 持続可能性と社会的責任
環境への配慮や社会貢献活動は、企業の評価を高める重要な要素です。持続可能なビジネスモデルを構築し、現地社会に貢献する取り組みを行うことで、長期的な信頼を得ることができます。例えば、原材料の持続可能な調達や、現地コミュニティの支援活動などがあります。

参入にあたっての課題と対策

法規制と知的財産
・課題
(1)法規制の複雑さ:各国で医薬品やサプリメント、医療機器に関する規制が異なり、認証取得に時間とコストがかかる。輸入関税や非関税障壁もビジネス展開の妨げとなる場合があります。ASEAN地域では医薬品や健康補助食品の規制調和が進められていますが、完全な統一にはまだ時間がかかる見込みです。例えば、2021年11月にASEAN健康補助食品の規制枠組み協定が最終化されましたが、各国の完全実施には最大5年かかる見込みです
(2)知的財産の保護:特許や商標の侵害リスクがあり、知的財産の管理が重要。模倣品や不正コピーによるブランド価値の毀損も懸念されます。

・対策
(1)専門家の活用:法務・規制に詳しい専門家やコンサルタントを起用し、適切な対応を行う。現地の法律事務所やコンサルティングファームとの提携も有効です。
(2)現地当局との連携:早期に規制当局とコミュニケーションを取り、必要な手続きを円滑に進める。セミナーやワークショップに参加し、最新の規制情報を収集します。ASEANでは知的財産権管理の調和が進められており、IP評価の分野でも取り組みが行われています。
(3)知的財産の戦略的管理:特許出願や商標登録を各国で適切に行い、知的財産を保護する。知的財産侵害の監視体制を構築し、必要に応じて法的措置を取ります。

文化的・倫理的な配慮
・課題
(1)文化的感性の違い:製品・サービスが現地の文化や信仰と合わない場合、受け入れられない可能性がある。宗教的な禁忌やタブーを侵すリスクもあります。特に看護分野では、文化的に対応した教育(CRT)の重要性が認識されています。
(2)倫理的な問題:生物多様性や伝統的知識の利用に関する倫理的な懸念。現地コミュニティの権利や利益を侵害しないよう注意が必要です。

・対策
(1)現地リサーチの徹底:市場調査や消費者インサイトの収集を行い、文化的背景を理解。フォーカスグループやアンケート調査を活用します。
(2)倫理的なビジネスモデル:伝統的知識の利用に際しては、現地コミュニティとの協議と利益共有を行う。アクセスと利益配分に関する国際的なガイドライン(例:名古屋議定書)を遵守します。
(3)文化適応型マーケティング:現地の文化や価値観に合わせたマーケティング戦略を展開。ローカルの意見リーダーやインフルエンサーとの協働も効果的です。

競争環境
・課題
(1)競合他社の存在:現地企業や他国の多国籍企業との競争が激化。価格競争や市場シェアの争奪が予想されます。例えば、ASEAN製薬市場では、地域の大手企業や多国籍企業が激しく競争しています。例えば、フィリピンではUnilabが国内市場をリードし、ベトナムでは政府系企業のVinapharmが強い影響力を持っています
(2)市場参入障壁:既存のネットワークやブランド認知度の低さにより、市場参入が困難な場合があります。

・対策
(1)差別化戦略:日本企業の強みである品質、技術、サービスを前面に出し、他社との差別化を図る。独自の技術やノウハウを活用した製品・サービスを提供します。日本企業の強みである品質、技術、サービスを活かすことが重要です。特に、ASEANでは米国FDAの基準に対する信頼が高く、これを活用した差別化が可能です。
(2)イノベーションの推進:新しい技術やビジネスモデルを導入し、市場の先駆者となる。オープンイノベーションやスタートアップとの協業も有効です。
(3)ブランド戦略の強化:マーケティングとPR活動を通じて、ブランド認知度を高める。現地の文化や消費者ニーズに合わせたブランディングを行います。

[参考]
*22 Culturally competent care across borders: Implementing culturally responsive teaching for nurses in diverse workforces – nih
*23 US – ASEAN oppotunities in the pharmaceutical industry – Source of asia

結論

ASEANにおける伝統医学と現代医療の融合は、地域の医療サービスを充実させるとともに、新たなビジネスチャンスを創出しています。経済成長と人口構成の変化を背景に、ヘルスケア市場の拡大が見込まれる中、日本企業にとっては製薬、医療機器、デジタルヘルス、教育、観光など、多岐にわたる分野での参入機会が広がっています。
成功の鍵は、現地の法規制や文化への深い理解と、信頼できるパートナーシップの構築にあります。また、日本企業の強みである品質と信頼性を活かし、現地ニーズに即した製品・サービスを提供することで、競争優位性を確立できるでしょう。加えて、持続可能なビジネスモデルと社会的責任を重視する姿勢は、長期的な成功を支えるとともに、現地社会からの信頼を得るための重要な要素となります。
課題を克服し、市場のポテンシャルを最大限に活用するためには、綿密な戦略計画と柔軟な対応が欠かせません。ASEAN市場での成功は、日本企業の成長と国際的なプレゼンスの向上に大きく寄与するでしょう。
こうした市場環境を踏まえ、日本企業はASEANの成長ポテンシャルを最大限に活用しながら、現地の規制や文化特性を十分に理解した戦略的アプローチを取ることが求められます。特に、デジタルヘルスやパーソナライズド医療といった新興分野での革新を推進することが、競争優位性の確立につながるでしょう。

注:本リサーチの情報は、2024年11月時点の公開情報に基づいています。市場データや企業情報は最新のものを参照していますが、詳細な数字は各企業の公式発表や市場調査レポートを確認することをお勧めします。


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